今年、単館上映から全国上映へのヒットを果たした自主制作の時代劇をご紹介します。
タイトルは「侍タイムスリッパー」。幕末の会津藩士が雷に打たれ、京都太秦の映画村にタイムスリップしてしまう、という荒唐無稽な物語です。
タイムスリップした武士は、カチンコの音で何度も同じ会話や動作を繰り返す撮影の現場にびっくり。実戦とは異なる隙だらけの立ち回りにびっくり。次第に、自分が未来に来てしまったこと、会津藩ばかりか幕府が滅亡したことを知って、絶望するのですが、親切な人たちに助けられ、日本が身分の差がなく貧富の差が少ない世の中になっていることに感動し、ここで生きる、と決めます。自分ができること、それは幼いころから磨いてきた剣の腕。立ち回りの殺陣師に弟子入りし、大部屋俳優の一人となります。
時代錯誤な立ち居振る舞いの武士を記憶喪失の青年だと思い、支えてくれるのは助監督をしている女性(映画のヒロイン)です。女性は、子供の頃、忙しい両親のかわりに祖母に育てられ、毎日時代劇を見て育った、風前の灯の時代劇を継承したい、と日々奮闘しています。私も幼いころ、毎日時代劇を祖母と一緒に見ていた1人です。
毎日、同じシリーズを繰り返し何度も、何年も見続けるうちに、「この人、また斬られてる」「今日はひとことセリフがあった」「あれ、さっき町人で出てたのに、今度は浪士で出てる」「お寺で切られたのに、城内でまた刀構えてる」という役者さんに気が付くようになります。いわゆる「大部屋俳優」です。なかでも全国的に時代劇ファンの心を掴んでしまう存在がおり、福本清三さんという役者さんです。この方が「誰だか知らないけど、気になる存在」として何年も奮闘を続けた結果、「どこかで誰かが見ていてくれる」という聞き書きの1冊にまとめられ、一躍注目される存在になりました。
「侍タイムスリーパー」のエンドロールには福本清三に捧げる、という献辞があり、主人公が大役に抜擢されたことを喜ぶ撮影所の所長のセリフにも「どこかで誰かが見ていてくれるんやなあ」というひとことが入っています。
映画の主人公は「誰かに認められて成功したい」という欲がなく、武士そのままのストイックな存在です。でも実は、ヒロインが自分を支えてくれ、見守ってくれている、それが生きる支えになっていることがわかります。
この日は夜から友人の企画・演出する芝居を見る予定でした。奇しくもタイトルは「Someone watch over me」。私を見守ってくれる人。芝居の後は、仲間たちと四谷のメキシコ料理店へ移動し、初めてのサボテン料理を味わいました。
2024.11.9 こしごえ