以前、職場で知り合った方から、今年も年賀状が届きました。あれから30年ですよ、とのこと。
当時、私は朝日新聞の求人広告で見つけた某非営利民間団体で働いていました。雇用契約は2年。2年だけですが、公務員並みの給与と年2回の賞与があり、退職金も約束されているという恵まれた待遇でした。
しかし、入社してすぐに間違いに気がつきました。雇用側は、ある程度の事務能力や接遇態度を備えた人材を雇って各部署に配属したはずで、研修や指導は全く行われませんでした。それまで、家族のような環境の中で手とり足取り教えてもらいながら、修行させてもらっていたので、何も教えてくれない職場環境に怒りを通り越して、(ピー)意さえ抱いていました。
そんな私を見かねて、何かと声をかけてくれたのは、当時派遣やバイトで働いていた同世代の女性たちでした。部署も違うし、仕事内容も重ならないのですが、いつもさりげなく助けてくれました。
なかでも痛快な女性が1人。彼女の能力の高さ、仕事の速さ、アイデアの豊富さは確かなものでしたが、それを活かすような業務には就いていない。派遣なのでいつクビになるかわからない、行うべき仕事量は定められている。必要最低限の職務をこなしながら、彼女は大きなビジネスビル内をスイスイと泳ぎ回っていました。そしてふらりとデスクに戻り「へへっ、お宝お宝」と言いながら戦利品を見せてくれます。それは置き捨てられたテレフォンカード(30年前です)、使用済みの郵便切手。どうやら彼女は発展途上国と当時言われていた国々を支援するNPO法人に関わっていて、それらは支援に活用できるとのことでした。
おちゃめな彼女に魅了され、派遣+バイト+嘱託職員の私たち一味は、仕事の隙間に協力を惜しみませんでした。この不思議なグループで私は「お姫様」「おひめ」と呼ばれていました。呼び始めたのは、件(くだん)の彼女です。なぜ姫なのか?今ならよくわかります。恵まれた立場、待遇にも関わらず、何も知らない、何もできない。でくのぼうと呼ばず、姫にしてくれた彼女に感謝です。
2025.3.15 こしごえ